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東京地方裁判所 昭和42年(手ワ)4669号 判決

理由

請求原因事実については当事者間に争はない。

そこでまず被告の主張事実について検討すると、被告は被裏書人欄および裏書日付が白地のまま呈示された場合その呈示は無効であり、その手形は手形要件を欠くから本件手形は無効であると主張するが、右はその主張自体失当であり、理由がない。

次に別紙目録(一)の手形の第一被裏書人欄についてみるのに右同欄に取締役社長藤沢富治の記載が第一裏書人欄に信州化学工業株式会社とその住所がそれぞれ記載されていることは被告提出の乙第二号証により認めることができる。そこで右記載が被告主張どおり本件手形が無効であるか否かについて検討すると、右記載が裏書人としての記載か被裏書人としての記載か判断するのに紛らわしいそしりは免れないとしても受取人欄の記載と照合すれば裏書人としての記載であることは容易に判断しうるところである。また裏書人欄に押捺してある信州化学工業株式会社の印判と第一被裏書人欄に押捺してある取締役社長藤沢富治の印判が同一会社名とその代表機関を表わすものであることは、その記名判の配列と代表者名下の藤沢富治の認印が裏書欄と被裏書欄の中間に押捺されていること、被裏書人記載の被裏書人名下にその認印の押捺があることは一般的にはあり得ないこと等を総合してみれば藤沢富治が第一裏書人信州化学工業株式会社の取締役社長であり第一裏書人が右同社であることは容易に認められるところである。そうして裏書人の記載が被裏書人欄に及んだとしても、そのことによつて裏書人の記載がないとはいえないから、かような記載による手形は無効であるとする被告の主張は理由がない。

次に別紙目録(二)の手形について被告は第一裏書人と第二裏書人の間の裏書譲渡は会社と取締役間の取引であり右譲渡行為について第一裏書人会社の取締役会の認許を得ていないから右譲渡行為は無効であると主張するが、原告は形式的に裏書の連続する手形の所持人である旨を主張しており被告も自らこれを認めるところであるから右認許のなかつたことの証拠がない限り原告は正当な権利者と推認されるとするのほかはないというべきところ右証拠はない。よつてこの点の被告の主張は理由がない。

被告主張の抗弁についてみるのに、原告が本件手形を悪意で取得した旨の抗弁事実を認めるのに足りる証拠はないから被告の右抗弁は理由がない。

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